プレイヤーラグ2点 (衣装は別の方の私物)

tekara people 0001-部族絨毯・キリム コレクターMTさん

現在、横浜エスニカで開催中の展示会tekara wonder vol.01 The Balochiに、珠玉のバローチラグのコレクションを提供してくれている収集家 Tさん。

忙しい主婦としての生活の傍ら、部族の絨毯を集め始めて10年。今では、海外のコレクターやディーラーとも直接に取引するまでに至った彼女のヒストリー&エピソードをご紹介します。

絨毯との出会いから世界の絨毯研究者があつまるICOC(国際絨毯会議)へ参加するまでを10月13日に行われた座談会On the carpetの音源を元に再構成しました。

最初の出会いは大型スーパーのギャベ。

昔から絵を観るのは好きというくらいで、モノを集めるという習慣はありませんでした。
敷物についても、以前は、スーパーで売っている化繊の敷物を普通に使っていましたし、それが普通だと思っていました。

それが、こうしていろいろな遊牧民の毛織物を集めるにいたったきっかけは、実は、近所の大型スーパーマーケットでクッションサイズくらいの商業用のギャベ(カシュガイ族の厚手のラグ)をはじめて見て、買ったこと。たしか7000円の特売品でした。

今から思えば、本当の部族のものではありませんでしたが、ウールの質感、天然染料の発色に惹かれるものがありました。
これがMY FIRST RUG(最初の絨毯)との出会いでした。

翌年も、同じ売場に同じ業者が出店していて、その業者と少し話してみると
「ギャベの他にもすばらしい絨毯がある。これを見てよ。奥さん」とアフガンの絨毯を出してきました。
その時に見せてもらった絨毯は、購入しませんでしたが、深い赤色の美しさには惹かれるものがありました。

シミや傷も魅力 不思議な味わいにあふれたトライバルラグ

プレイヤーラグ
プレイヤーラグ

その後、しだいに、ネットショップを中心に色々なトライバルラグタイプの絨毯を観るようになりました。
幾つかネットショップを見て回るにつれ、こういうラグもいいなあと思うようになったのです。

そこで、勇気を出し、トルクメン絨毯を購入。それは、商業用のもので、コレクターズアイテムというよりは、実用に向くものでした。ただ、色や質感などは、自然で好ましく、今も使っています。

そして、いよいよ本格的なトライバルラグを買うことになったのですが、それはバルーチの80年以上の時間を経たオールドソフレ(ソフレ:食事用の敷物)でした。
作った人が、自分たちで適当に修理をした部分、天然染料独特の色あせ、さらには、糸の太さや種類も異なるものが使われていたりと、これまでの工業生産、商業目的のものとは明らかに違う感じがしました。

「売り物」としてだったら、マイナスポイントになる部分も、なんだか現地の人たちの息遣い、暮らしを感じられ、愛おしいと思いました。つまり自分たちが使うためのものに、美を感じたのです。今思えば、この時がコレクターとしてのスイッチが入った瞬間だったように思います。

ラグにかぎらず、大量生産、消費、廃棄の品物は新品の状態が一番良いと思います。使い込んでいくうちにできた汚れやシミは、価値を損ない、遠くない将来捨てる運命にありますが、遊牧民の手仕事は、擦り切れ毛足がなくなったようなものでも魅力的で、美しいものだと思います。

(テカラからの補足)

羊毛にはラノリンという成分が含まれており、これは摩擦により光沢を帯びるのが特徴です。ウールでできた学生服のおしりがテカテカしているのは、まさにこのラノリンによるもの。絨毯やキリムも、使われていくことで、光沢が増し、また遊び毛がとれしなやかに、手触りよくなります。

コレクション
コレクション

いよいよ海外との交流へ

こうして次第に、トライバルラグに触れる機会が増えていくと、しだいに、なぜ「過酷な遊牧生活をしている人が こんな手の込んだものを作るのか? 実用だけ考えたら、シンプルなもので十分なのに、様々な技法やデザインに拘るのか?」こんなことを知りたいと強く思いはじめました。

しかし、日本には書籍も資料も極めて少なく、絨毯やテキスタイルの美術館もない。そこで、絨毯とともに海外の専門書もしだいに集めるようにもなりました。

学校教育で得た英語の知識だけでしたので、最初は、辞書で単語を調べながら、苦労しながら読み始めましたが、素材、染料、技法、歴史、知れば知るほど、奥深い世界に益々、魅了されました。

資料を見ていくと、海外では、様々な大規模な展示会、展覧会が時折紹介されており、いつか出かけてみたいと思うようになりました。

そして昨年、ついにストックホルムで開かれたICOCを訪れました。(ICOC: International Conference on Oriental Carpetの略。世界中のトライバルラグ愛好家が集まる一大イベント。4年に一度開催)

時期は震災直後。こんな時期に行っていいものかと躊躇しましたし、ヨーロッパは初上陸で大変、緊張しました。飛行機が中国系の航空会社だったせいで、入国審査の質問に思わず中国語(Tさんはかつて中国語も勉強されていた)で答えてしまったり、方向音痴でホテルまで辿りつけなく焦ったりと、たいへんな旅でしたが、様々な出会いを経験できました。

会場では、実際に、素晴らしい物をみたり、レクチャーがあつたり、絨毯も購入もできる大規模なカンファレンス(国際会議)で、3日ほどじっくり堪能しました。中でも、ディーラーズフェアでは、トルコのエルズムスのキリムに目が止まりました。かなり状態が悪いので安いだろうと値段を聞くと、なんと9000ドル。(およそ72万円)!!! とても手がでませんでした。欧米では、こんなにも価値があるのかと・・・改めて、ラグの人気ぶりを実感しました。

ICOCでは、拙い英語ながら、いろいろな業者ともお話しができました。同じ絨毯好き同士。「言葉は要らない」とまでは言いませんが、コミニュケーションができたと感じています。

それから、最近では、海外のeBay(オークションサイト)や、海外ディーラーのサイトなどを通じて購入することも多いです。最初は「お金だけ取られて品物が届かなかったら、どうしよう」という不安もありましたが、幸い、今までトラブルはありません。欧米のトライバルラグの世界も意外と狭いということ以外に、ICOCでも感じた絨毯好き同士の信頼が、自然とうまれるからではないかと思ったりもしています。

そういえば、こんなエピソードもありました。

それは、以前、スイスの方からラグを買った時のこと。細く巻いた絨毯の包みを開けたら、中から、美味しそうなスイスチョコレートがゴロゴロと入っていました。なんか嬉しくて、そして粋な計らいに気持ちが暖かくなりました。

プレイヤーラグ2点 (衣装は別の方の私物)
プレイヤーラグ2点 (衣装は別の方の私物)

トライバルラグへの思い

多くのサイトや書籍、そしてコレクター達との交流を続けていくほどに、部族絨毯には、様々なグループ、技法、デザイン、色彩があり、益々魅力を感じています。今回展示している渋いバローチのラグ以外にも、様々な地域、部族のものに、それぞれの美しさがあると思っています。

カシュガイのデザインには、星や花などのモチーフがよく表現されていて、可愛らしいけど、同時に深みがあって好きです。その他にもトルコの垢抜けた女の子が好きそうなキリムや、緻密なトルクメンの絨毯も外せないと思っています。こうして、コレクションの歯止めがきかなくなってしまいました。(笑い)

ただ、これまでいろんなラグを集めてきましたが、今回展示中のプレイヤーラグについては、一時期、集めるのを躊躇したことがあります。

それは、本来イスラム教徒の方たちがお祈りを捧げるための敷物を異教徒である私が集めて良いのか?ということ。

でも、プレイヤーラグは、他の敷物以上に、良い羊毛を使い、丁寧に作られています。それは神に祈りを捧げるためのものですから、ことさら素晴らしいのも頷けるというもの。

しばらく、悩んだ末、ならば、絨毯に最大限の敬意を払って(座ることはあっても、横切ることを避けるなど)プレイヤーラグを扱うことで許されるかなと考えるようになりました。

絨毯は私のマジックコンパニオン

先ほどもお話しましたが、現在は、国内のサイトだけではなく、、海外ディーラーのサイトからも購入しています。海外ディーラーの中には「このラグは僕のマジックコンパニオン(魔法の相棒)だったんだよ。それをこの魅力が分かる人にゆずるよ」なんていう面白くもあり、また同じラグを愛する者の心をくすぐる謳い文句もあったりします。

「魔法」・・・たしかにアンティークやオールドキリム達には、魔法というか不思議な力が宿っているように思います。私は、育児はもう卒業しましたが、仕事などで疲れると、大好きなラグを眺め、撫でています。それは、まるで愛犬、愛猫をナデナデするような感覚です。こうして、しばらくすると、「明日もがんばろう」という気が湧いてきます。それが何故かはわかりませんが、国内のコレクター仲間に、その話をしたところ、バリバリのキャリアウーマンである彼女も、やはり同じようなことをし、同じ気持ちになるんだとか。

私はこうして、「絨毯には私達の心を解きほぐす何か、つまり魔法がある」と思うようになりました。そんなラグがもつ魔法を、今回の展示を通じて感じてもらえたら嬉しいなと思います。

(テカラからの補足)

かの有名な心理学者フロイトは、自身の診察室にトライバルラグを敷いていたとのこと。彼のもとを訪れる相談者も、やさしい絨毯の色合い、肌触りで心を開いたのかもしれません。 また、バローチラグは、濃く深い色合いの毛織物を多く用いますが、これも、激しい陽光で疲れた目を休ませる効果もあるのでは?とも言われております。精神と肉体の緊張を緩和させる秘密があるのかもしれませんね。

資料

今回、ご紹介したTさんは、”My Favorite Rugs and Kilims”-好きなもの ずうっとながめていたいもの-というブログを2年ほどに渡り、書いていらっしゃいます。トライバルラグの専門書に書いてあることを分かりやすく、実例とともに紹介されていたり、愛しいラグのことをじっくりと紹介しています。是非、お気に入りに入れて、お読みくださることをお勧めします。
http://rug-lover.jugem.jp/

さらに、facebookでも、トライバルラグの情報を配信しています。こちらはTさんのブログ以外にも世界の様々なラグ情報を紹介中https://www.facebook.com/ruglover

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