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tekara people 0003-文化人類学者渡辺公三先生

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世界の手仕事熱中人を追いかけるtekara people第三弾は、文化人類学者の渡辺公三先生。世界を代表する文化人類学者レヴィ=ストロース研究の第一人者であるほか、文化人類学の視点から世界の文化を研究されている。今回は先生がフィールドワークを行ったアフリカ・コンゴ民主共和国(旧ザイール)のラフィア布やクバ王国の文化についてお話を伺った。

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ラフィア布とその世界

渡辺先生は1984年~90年に、アフリカの中央部、コンゴ民主共和国(旧ザイール)において、かつてこの地で繁栄したクバ王国の調査研究を行う。プショング族やショワ族など言葉も少しずつ異なる多数の民族が集まるクバ王国では、それぞれの民族で「ラフィア布」と呼ばれる布を生活の中で使ってきた。「ラフィア布」は、ヤシ科の植物「ラフィア」の若芽から作られた糸を使って織りあげた布で、各民族で独特の幾何学パターンや刺しゅうを施す。日本では「草ビロード」と呼ばれることもある。彼らは「ラフィア布」をときに財産として、ときに死装束として位置づけている。王国の中心をなるブショング民族では、「ラフィア布」は王権の象徴となる。王様の手の込んだ衣装が頂点をなす。こうしたクバ王国の文化から、渡辺先生はフィールドワークのなかでこの布について、文化人類学的にアプローチを行ってきた。

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アフリカとの出会い

編集部:ラフィア布は特徴的なデザインの施された布ですが、アフリカにこのような布があるということも知られていないと思います。渡辺先生はそもそもなぜアフリカでフィールドワークを行うことにしたのでしょうか。

渡辺先生:私は1960年に小学校6年生だったんですけども、その年は「アフリカの年」と言われたときでした。ぞくぞくとアフリカの国が独立をしていった年です。物心がつき始めたときに地平線の彼方に全く知らないアフリカという世界が見えてきたという印象を受けて、それからずっとアフリカは気になっていました。その後、私が大学入ったときに文化人類学をやろうと思っていたのと、若いから「どこかに行きたい」という想いもあって、それなら昔から興味のあった「アフリカ」をやろうと思ったわけです。

編集部:そうしたなかラフィア布と出会ったわけですが、このラフィア布の魅力はどのようなところにあるのでしょうか。

渡辺先生:ラフィア布のパターンの豊富さ、なぜこうしたデザインになったのかという疑問からラフィア布に惹かれました。そして連続したパターンが途中で切れて、別のパターンに変わるものがある。普通我々が考えるとすべて同じパターンで統一したデザインにしがちですが、そうした途中変更されたパターンのラフィア布が数多くあります。規則的なパターンを作るように見えながら、気まぐれといえそうな自由さがある。アップリケの女性の衣装のデザインもたいへん魅力的です。それは織りあがった布を柔らかくするために濡らしてしごく時にできてしまう穴を塞ぐための当て布から始まったといいます。穴があくという偶然からデザインが始まっています。そしてそのラフィア布の使用用途も彼ら独自のものがあります。

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ラフィア布-独特の美的感覚

編集部:いつも思いますが、こうした布は、最初に作った方はすごいですね。よく植物の繊維から糸を作り、布を編もうと思いましたよね。

渡辺先生:どうやって最初にそれを発見したか、ということはなかなか難しいのですが、ラフィアの繊維を使った織りの技術は中央アフリカに広がっています。その次の段階でなぜこんな布を作ったのか、ということは、説明できると思います。これは私の想像ですが、ラフィア布の感触が動物の毛皮に似ているということがあります。例えばクバ王国のなかのショワ族では、王様の衣装など王権を飾り立てるためだけにラフィア布を使うわけではありません。女性たちは、親族の男性が亡くなったときに死者に被せるなどして葬るために布を作ります。そしてその部族の方に聞いた話ですが、実はラフィア布が誕生する前、彼らはヒョウやキリンの皮を死者に被せていたといいます。そうしたことから動物の毛皮を似せて作ったのが始まりなのではないかと私は想像しています。

編集部:確かにラフィア布なかにはヒョウ柄のように見えるものなどがありますね。それでは、なにか統一されたパターンやデザインなどがラフィア布にはあるのでしょうか。

渡辺先生:ラフィア布にはさまざまなデザインのものがありますが、そのなかには共通してよく使われる基本的なパターンのようなものがあります。ラフィア布はだいたい縦200本×横200本の糸を使って平織りになっています。そしてその平織りの縦糸と横糸が交差している部分の表に出ている方の糸の下にさらに糸を通して刺繍をします。ですから裏側から見るとその細工は見えません。そうすると、200×200=4万の交差する目があって、それを一個おきに拾っていくことになりますから、一番拾いやすいのは斜めに拾っていくことです。そうして拾いやすい目を使ってデザインされるものは、斜め方向にデザインされたものや格子状のデザインが基本パターンとなる、ということが説明できます。しかし布の途中でそのパターンが急に変わっているものもよくあり、われわれの理屈では途中から気まぐれにデザインが変わったようなものもはどうなのか、と思いますが現地の人からするとこれは良いということになる。つまり理屈としてはこのような思考で作っているのだろうと想像がある程度はできますが、作っている本人たちにしかわからない美的な感覚があるのだと思います。

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布が人にパターンを作らせる

編集部:王族にしか使ってはいけないパターンがあるという話を聞いたことがあります。いくつか統一されたルールのようなものはあるが、しかし実際には本人にしかわからない思いやメッセージなどが表された布も多くあるということですね。

渡辺先生:本当はそうしたことを本腰をいれて研究をしようと思ったところで政情不安になり内戦が始まったことから調査を中断することになってしまったので残念です。ただし1度だけ、村の男たちがあるパターンの布を見ながらさんざん議論をしている現場に立ち会ったことがありました。そこから感じたのは、パターンをいかに布に細工をしてできあがるのかという過程と、そのパターンに人々がなにを読むか、という2つのことは別々なのだということでした。このパターンの作り方というのは、それぞれの民部族では同じ技法で作っているので同じパターンができます。しかしおそらく同じパターンでもそこから読み取るメッセージやストーリーはそれぞれの民族さらには村によって違うものが出てくるのではないでしょうか。

編集部:同じパターンでも読み取り方が違うというのは面白い視点です。

渡辺先生:手の技が生み出す形と、頭で考えてなにか形を読み取るということは違うものだと思っています。手が布を織ると縦横200の糸と4万の目ができて、そこに刺繍などを施します。そのできあがるデザインやパターン、それはある意味ではラフィア布がクバの人々に作らせたと考えることもできます。こうして布にパターンを作らされた人間はさらにこうしたパターンも作れるのでは、といろいろなパターンを作り出していきます。手が作り出して、作り出したものが人に働きかけて、それに人が応えて、そうしてさまざまなパターンが作られていく。手業のすごさはそういったところにあると思います。布というものが生まれるプロセス、そしてその素材としての布が人に働きかける力というものがあることにも注目をしてほしいです。

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消費するものと人間の距離

編集部:そうしてさまざまな想いから作られるラフィア布は、彼らのなかではどのような役割のあるものなのでしょうか。

渡辺先生:クバの人々にとってラフィア布は死んだときに一緒に葬られるものです。つまりその人が生きた証でもあります。そのほかにも財産という側面もありす。例えば裁判で裁かれた際、被告の親族が賠償として布を渡すという慣習もあります。ほかにも結婚する際にラフィア布を渡して嫁に来てもらうということもあったようです。

編集部:現代日本人が考える布とはまったく違う布の立ち位置ですよね。ラフィア布の意味や価値を知り、考えることは、身の回りのものをなにも考えずに消費しがちな普段の我々の生活を考え直すきっかけにもなると思います。

渡辺先生:自分の身の回りにある素材からどういう可能性を引き出すか、ということは重要です。アフリカの中央部では身の回りにあったラフィアという植物から繊維を作って布を作り、現地の人はそこからさらに、その布をどう使うかとさまざまな可能性を探ってきました。自分の置かれている環境のなかからなにを作り出すかを考えることはクバ王国やラフィア布に限らず、どんな人間の社会も持っていたテーマそのものと言えますね。

編集部:彼らを見習い、自分たちが消費しているものとの距離を縮めることの大切さや意味を考えてみたいと思いました。本日は貴重なお話ありがとうございました。

 


 

本インタビューは、2013年6月に開催されたtekara wonder vol2 草ノ布において行われた特別企画 座談会「界面としての布」に合わせ、お話を伺った内容となります。